知的生活のあしあと

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【おすすめ本を探して】5045冊目「起業家」の読書感想

こんにちは、nishikadoです。
サイバーエージェント藤田晋社長による、(自伝的)社長エッセイです。

本書の構成は以下の通りです。

第1章 暗闇の中で
第2章 土台作り
第3章 追い風
第4章 手痛い遅れ
第5章 ライブドア事件
第6章 逆風
第7章 進退をかけて
第8章 熱狂の後

 

ポイント1 社員を大切にする企業文化について

・「社員を大切にする」という会社側からのメッセージに応えるように、ぱったりと社員が辞めなくなりました(p70)

IT業界らしくない、終身雇用的、古き日本の雇用体制を敷いた点、特徴的です。その結果、社員が会社を大事にするようになったという経験は、教訓に富んでいると思います。

 

ポイント2 ライブドア事件

・初めて同世代の経営者に嫉妬心を抱いた(p128)

嫉妬した相手は、堀江貴文氏です。
それほど分量はないのですが、ライブドアが席巻し、そして没落する姿が、よく知る立場から描かれており、貴重だといえます。

 

ポイント3 イノベーションの難しさ

・経営者が何らかの違和感を覚えたら、それは介入のGOサインだと考えて間違いないと思います(p143)

アメーバ(アメブロ)成功までの道筋も本書の大事なテーマです。
事業部の目標がPVのみという大胆な設定をしたこと、幹部を更迭し、自らが責任者となり、会社のカルチャーを変えるほどの苦しみをしながら、アメブロの知名度を上げ、黒字化させるまでの様子が書かれています。
web事業を考えるにあたっても、参考になりました。

 

以下は、線を引いた部分です。

・実績がないのに自分でやらず人任せ。人任せだから自信を持って周囲を説得することもできない。「何かがおかしい」と思いながら手を打てない。何もかもが中途半端でした。(p52)
・ネット業界の歴史を振り返れば、目まぐるしく変わる環境の変化の中で、新しいことをやらなくなってしまった会社は全て消え去っています(p58-59)
・日本特有の事情なのかも知れませんが、新卒採用時に優秀な人材を獲得しておかないと、中途採用だけで人材を揃えるのは困難です。優秀な人材は新卒で大企業に入ってしまうと、簡単には辞めず中途市場に出てこないからです。(p64)
・(変化が激しい時だからこそ、ブレない軸が必要なんだ)そう思っていても定まらなかった軸がようやく定まりました(p68)
・「社員を大切にする」という会社側からのメッセージに応えるように、ぱったりと社員が辞めなくなりました(p70)
・会社が「社員を大事にするよ」と呼びかければ、社員も「会社を大事にしよう」と応える。考えてみればとても単純なことでした(p77)
・ルールに則ってさえいれば、いくらでも新規事業の立ち上げ”数”を増やすことが可能になったのです。この制度はシンプルで、「1年半で黒字化しないと撤退」ということと「赤字の下限を決めている」という2本の柱から成り立っています(p84)
・私が営業を担当し、堀江さんが技術を担当するという間柄でした(p101)
・「知名度」。それがインターネットメディアにとってどれだけ重要かを私と堀江さんは骨身に沁みて知っていました(p104)
・初めて同世代の経営者に嫉妬心を抱いた(p128)
・経営者が何らかの違和感を覚えたら、それは介入のGOサインだと考えて間違いないと思います(p143)
・その頃に日経新聞本紙のベンチャー欄が廃止されました。(中略)ベンチャー欄廃止により、そのような日本特有のベンチャー企業が育っていく風土もなくなってしまいました(p174)
・立ち上げ途中の事業を無理やり短期的に黒字化させても、萎縮させるだけです。30億ページビューで収益化させ始めれば、そのメディアは30億ページビューのサイズのメディアになります。5億ページビューで収益化させ始めれば5億ページビューのメディアに、100億ページビューで収益化させ始めれば100億ページビューのメディアになるのです。収益化に本気で取り組まなくとも、自然と損益分岐点を越えていくような事業でなければ、本当に収益力のある事業に育つことは望めません(p193)
・ネット特有の事情として、かなりの巨大なメディアに育たない限りは、安定した収益を稼ぐ事業にはなりません(p194)
・世の中にないものは言葉で言っても伝わらないものです。結果で見せるしかない、そんなつもりでした(p199)
・社内の目標から売上を外し、ページビュー数1本に絞り込みました。(p203)
・アメーバの幹部を総入れ替えすることに決めたのです。(中略)創業以来こだわっていた、「任せたら口出しせず、支援に徹する」、そんな自分の経営スタイルからの決別を意味していました(p220)
・(30億ページビューを超えたら収益は伸びるはず)そう信じていたものの、何で売り上がるかなどの見通しは全く立てられてはいなかったのです。そもそもアメーバは収益計画を立てようとすらしていいませんでした(p257)
・2009年9月、アメーバ事業部はついに損益分岐点を超えて黒字化しました。かつてのように、無理に黒字化させたわけではなく、実に自然と損益分岐点を越えていきました(p277)
・本当の意味で黒字化するまで、立ち上げから6年もかかってしまいました。その間の累積の赤字額は60億円に上ります(p280)
・広告代理店からメディア企業へと企業文化を変えるのは想像を絶する難しさでした。営業中心の会社が、技術に強い会社に変貌と遂げることも用意ではありませんでした。それでも変わることができた理由は、サイバーエージェントの企業文化の土台をしっかり作ったことにあると思います。長く働く人を奨励し、事業と社員を育成してきました(p285)
・私は今、かつての自分以上に『熱狂』しています。今でも変わらず、私は起業家なのです(p290)

個人的には、前作の「渋谷ではたらく社員の告白」のほうが、ドラマ性も強く、印象に残った気は、正直します。ただ、それは、様々な逆境もあるとはいえ、「上場」を果たした後という、会社としてのある程度の安定感が背景にあるためかなと思います。
しかし前作同様、正直に自らの弱点や足りないところを記述される点は、同じく経営に携わる方や、経営をこころざす方には、とても参考になると思います。また企業カルチャーを変える難しさや、自分の経営スタイルを変えることの必要性など、とても示唆に富んでいます。
経営者の方は必読、それ以外の方にもおすすめできる本です。

 

くわしくは、起業家